Amazon プロジェクトゼロ(Project Zero)は、Amazon が 2019 年に米国で開始した模倣品撲滅プログラムで、2024 年 6 月に日本でも本格展開が始まりました。「Brand Registry に登録すれば自動で使える」と誤解されがちですが、実際には別途申請が必要で、過去 6 か月の知財侵害報告実績や承認率 90% 以上といった条件をクリアしなければ参加できません。
この記事では、プロジェクトゼロの 3 つの主要機能、Brand Registry や Transparency との違い、申請条件の実態、そして「申請ハードルが高くて通らない」「マルチモールでの転売には効かない」といったケースの代替手段を整理します。中小ブランドのオーナーが「自社で何ができるのか」を判断できる状態にすることがゴールです。
Amazon プロジェクトゼロとは — 模倣品撲滅の上位プログラム
Amazon プロジェクトゼロは、ブランドオーナーに対して模倣品リスティングを自分の判断で直接削除する権限を付与するプログラムです。通常の知財侵害申告(Report a Violation)では、Amazon の審査担当者が削除可否を判断するため、申告から削除までに数日〜数週間かかります。プロジェクトゼロに参加すると、ブランド側が「これは模倣品だ」と判断したリスティングを管理画面から即座に削除できます。
2019 年 2 月に米国・欧州(フランス・ドイツ・イタリア・スペイン・英国)で開始され、その後カナダ・メキシコ・オーストラリア・インド等に拡大、2024 年 6 月に日本がリリース対象国に加わりました。現在は世界 22 地域で展開されています。世界全体での参加ブランド数は 2024 年時点で 35,000 を超えるとされていますが、これは Brand Registry 登録ブランドの一部にとどまります。
「Brand Registry に登録すれば自動的にプロジェクトゼロも使える」と思われがちですが、両者は別プログラムです。Brand Registry は商標を持つブランドオーナー向けの登録制度であり、プロジェクトゼロは Brand Registry の上に積み上がる追加申請制プログラムという関係になります。
プロジェクトゼロの 3 つの主要機能

プロジェクトゼロには大きく 3 つの機能があります。それぞれ位置づけが異なるため、自社にどれが必要かを切り分けて検討するのが現実的です。
セルフサービスカウンターフィットリムーバル(自分で削除する権限)
プロジェクトゼロの中核機能です。ブランドオーナーが Amazon の管理画面から、自社商品の模倣品と思われるリスティングを直接削除できます。通常の知財侵害申告と異なり、Amazon 側の審査を介さずに即時削除が反映される点が最大の差別化ポイントです。
ただし**削除権限には承認率 90% 以上の維持義務が伴います。**過去の削除申請のうち、Amazon が事後検証で「正当な削除だった」と判定した割合が 90% を下回ると、プロジェクトゼロの参加資格が停止されることがあります。誤削除や悪意ある削除を抑止する仕組みで、「使い放題」ではない点に注意が必要です。
自動プロテクション(機械学習による自動検知)
ブランドオーナーが Amazon に提供したロゴ・商標・商品画像・キーワード等の情報を機械学習モデルが学習し、模倣品と思われるリスティングを自動的にスキャン・ブロックする機能です。手作業でモニタリングしなくても、Amazon 側が出品段階で疑わしい商品を弾いてくれます。
セルフサービス削除と組み合わせることで、自動検知 → ブランド側が確認 → 削除という流れが回るようになります。「自動だから何もしなくていい」わけではなく、ブランド側がチューニング情報を継続的に提供する前提のシステムです。
Transparency(シリアル化による真贋判定)
Transparency は商品ひとつひとつに固有の二次元コードを発行し、購入者が Amazon アプリでスキャンすると本物か模倣品かを判定できる仕組みです。プロジェクトゼロとは別のプログラムですが、申請時に併用がしばしば推奨されます。
Transparency はコードあたり 1 〜 5 セント程度の有料サービスで、商品単価が低い消耗品では費用対効果が合わないこともあります。詳細はAmazon Transparency の料金とコスト計算で整理しているので、併用を検討する場合は先にそちらをご確認ください。
Brand Registry と Project Zero の違い
両者の関係を整理すると、以下のようになります。
| 項目 | Brand Registry | Project Zero |
|---|---|---|
| 目的 | 商標保有ブランドの基本登録 | 模倣品の能動的排除 |
| 登録/参加条件 | 登録済み商標の保有 | Brand Registry + 知財侵害報告実績 + 承認率 90% 以上 |
| 主な機能 | 知財侵害申告ツール、A+ コンテンツ、ブランドストア、Vine 等 | セルフサービス削除、自動プロテクション、Transparency 連携 |
| 申告から削除までの時間 | Amazon 審査経由で数日〜数週間 | ブランド判断で即時削除 |
| 料金 | 無料 | セルフサービス・自動検知は無料、Transparency のみ有料 |
| 対象国(日本含む) | 日本対応済 | 日本対応済(2024 年 6 月〜) |
つまり Brand Registry は「ブランドオーナーであることを証明する基盤」、プロジェクトゼロは「その基盤の上で能動的に模倣品を排除するための上位機能」という構造です。Brand Registry の知財侵害申告ツールでは反応が遅すぎると感じるブランドが、次のステップとしてプロジェクトゼロを検討する流れが一般的です。
なお、Brand Registry 自体にも限界があり、商標未取得段階では何も使えません。商標出願中のステップで何が可能かはAmazon Brand Registry の限界 — 商標なしブランドが取れる対策を参照してください。
申請条件と通過のハードル

プロジェクトゼロは「Brand Registry 登録ブランドなら誰でも申請可」という設計ではなく、実績ベースの審査があります。日本の中小ブランドで多いのが、「申請したいが条件を満たしていない」「申請してみたら却下された」というケースです。
過去 6 か月以内の知財侵害報告実績
申請時点で、過去 6 か月以内に Brand Registry の知財侵害申告ツールを継続的に使っていることが求められます。模倣品出品が少ないブランドや、Brand Registry を登録したばかりのブランドは、まずここで条件を満たしません。
知財侵害申告のテンプレートと書き方はAmazon 知財侵害申告のテンプレートと書き方で解説しています。プロジェクトゼロを将来的に申請したい場合は、Brand Registry 登録直後から侵害申告の実績を積んでおくのが現実的です。
承認率 90% 以上の維持
提出した削除申請のうち、Amazon が事後検証で「妥当だった」と判定した割合が 90% 以上である必要があります。**誤削除や根拠の薄い申告を繰り返すと承認率が落ち、申請段階で弾かれます。**プロジェクトゼロ参加後も同じ閾値が維持義務として課されます。
Amazon ポリシーの遵守履歴
過去にアカウント停止やポリシー違反履歴があるブランドは申請が通りにくい傾向があります。Amazon からの警告(Performance Notification)を放置していた場合も同様です。警告対応の優先度判断はAmazon の警告を無視するとどうなるか — 段階別の対応指針で整理しています。
中小ブランドにとっての現実
これらの条件を総合すると、「Amazon に出品し始めたばかりの中小ブランド」「模倣品が出始めたばかりで申告実績が少ないブランド」がプロジェクトゼロに即参加するのは事実上難しいということになります。Amazon の公式ニュースで「世界 35,000 ブランドが参加」と発表されていますが、Brand Registry 登録ブランドの母数(数十万単位とされる)から見ると、参加できているのは一部のブランドに限られています。
プロジェクトゼロが効かないケースと代替手段

プロジェクトゼロは強力なプログラムですが、すべての転売・模倣品問題を解決できるわけではありません。次の 2 つのケースは特に注意が必要です。
マルチモール(楽天・Yahoo!・メルカリ等)での転売
プロジェクトゼロは Amazon 内のリスティングのみを対象としています。**自社ブランドが楽天市場・Yahoo! ショッピング・Qoo10・メルカリ等に転売出品されているケースには一切効きません。**Amazon で削除した模倣品出品者が、楽天やメルカリで同じ商品を売り続ける、という事例は珍しくありません。
マルチモールでの転売対策は、各モール個別の権利侵害申告フローを使うか、複数モールを横断的にモニタリングするツールに頼ることになります。横断モニタリングツールの選び方は転売監視・模倣品検知ツール比較 — しるし・Sentrio・Brand Registry の違いで解説しています。
申請が通らない・通すまでの待機期間が長い場合
知財侵害申告の実績が足りずプロジェクトゼロ申請が通らないブランドは、申請条件を満たすまでの「つなぎ」をどう運用するかが課題になります。選択肢は大きく 2 つです。
選択肢 A: 運用代行サービス
しるしのような Amazon 特化の運用代行サービスは、ブランドオーナーに代わって相乗り出品者の検知・削除申告・場合によっては法的措置までを代行します。プロジェクトゼロのように即時削除はできませんが、自社で侵害申告ツールの操作に時間を割けない・ノウハウがないブランドにとって、外注する選択肢になります。料金は非公開で個別見積もりのため、規模感によってはコストが合わないこともあります。
選択肢 B: セルフサービスの転売監視ツール
予算的に運用代行は厳しいが、Amazon 以外のモールも含めて自社で監視したい場合は、マルチモール対応の転売監視ツールを使う方法があります。複数モールを横断的にモニタリングし、自社商品の不正出品をアラートする仕組みです。プロジェクトゼロのように Amazon 内で「削除する」権限はありませんが、**「転売されている事実を素早く把握する」**部分はカバーできます。Amazon 内ではプロジェクトゼロ・マルチモールでは監視ツール、という二刀流の運用が現実的です。
Transparency との関係 — 併用すべきか
プロジェクトゼロと Transparency は別プログラムですが、Amazon 公式は併用を推奨する場面が多くあります。判断軸は次の 3 点です。
- 商品単価: コードあたり 1 〜 5 セントの追加コストを商品価格に乗せられる単価か(千円以下の消耗品は厳しい)
- 模倣品の発生頻度: 既に Amazon・転売モールで模倣品被害が頻発しているか
- 生産ロットと運用負荷: コードを商品に貼付・印刷する運用が回せる体制があるか
Transparency は申請が却下されることもあり、その場合は別の対応が必要になります。却下事由と対応はAmazon Transparency の申請が却下される理由と対応で解説しています。
中小ブランドが先に取り組むべきは、多くの場合 Brand Registry の徹底活用とプロジェクトゼロ申請条件のクリアです。Transparency 併用はその後の判断で十分間に合います。
まとめ — ブランド規模別の選び方
ブランド規模・状況別の判断フローを整理すると次のようになります。
- Amazon 出品開始から 6 か月未満・知財侵害申告実績なし: まず Brand Registry の侵害申告ツールを使い込み、実績を積む。プロジェクトゼロ申請は半年〜 1 年後に再検討。
- Brand Registry 運用済・模倣品が継続発生・申請条件満たす: プロジェクトゼロを申請。承認率 90% 維持に注意し、削除根拠を必ず記録。
- マルチモールでの転売も発生している: プロジェクトゼロでは対応不可。Amazon 外のモールはセルフ監視ツールか運用代行サービスで補完。
- 申請が却下された・予算的にプロジェクトゼロ運用が回らない: 運用代行(しるし等)を検討、または予算重視ならマルチモール対応のセルフ監視ツールを採用。
プロジェクトゼロは「Amazon 内の模倣品対策の最強カード」ですが、**カードの上に立つには Brand Registry の運用実績という前提があり、Amazon 外には効かない限定もあります。**ブランド全体の保護戦略は、プロジェクトゼロ単体ではなく Brand Registry・Transparency・マルチモール監視を組み合わせる前提で組むのが安全です。
転売対策の全体像はEC 転売対策の全体像 — 出品側と注文側の 2 本立てで整理しているので、自社ブランドの優先順位を決める際の参考にしてください。
FAQ
Q. プロジェクトゼロは Brand Registry に登録すれば自動的に使えますか?
いいえ。Brand Registry とプロジェクトゼロは別プログラムで、追加申請が必要です。Brand Registry の侵害申告ツールを過去 6 か月以上使い込み、承認率 90% 以上を維持していることなどが条件になります。Brand Registry 登録直後のブランドは、まず侵害申告の実績を積む段階から始める必要があります。
Q. 申請が却下された場合、再申請はできますか?
可能ですが、却下理由を解消してから再申請する必要があります。多くの場合、却下理由は「侵害申告の実績不足」「承認率の不足」「Amazon ポリシー違反履歴」のいずれかです。Brand Registry の侵害申告を継続的に使い、誤申告を減らすことで再申請の通過率が上がります。再申請までの推奨待機期間は明示されていませんが、3 〜 6 か月の間隔を空けるブランドが多い印象です。
Q. プロジェクトゼロで楽天市場やメルカリの転売も削除できますか?
できません。プロジェクトゼロは Amazon 内のリスティングのみを対象としています。楽天・Yahoo! ショッピング・Qoo10・メルカリ等での転売対応は、各モール個別の知財侵害申告フローを使うか、マルチモール対応の監視ツールで補完する必要があります。
Q. Transparency とプロジェクトゼロ、どちらを先にやるべきですか?
中小ブランドの場合、まず Brand Registry の侵害申告ツールを使い込み、プロジェクトゼロの申請条件を満たすことを優先するのが一般的です。Transparency は商品単価・模倣品の発生頻度・運用負荷を見て、必要性が明確になってから導入を検討すれば十分です。両方を同時に立ち上げると運用負荷が大きく、続かないケースが多くあります。
Q. 承認率 90% を下回るとどうなりますか?
プロジェクトゼロの参加資格が停止される可能性があります。停止後は通常の Brand Registry 侵害申告に戻り、Amazon の審査経由で削除申請を出す形になります。停止からの復帰条件は公式に明示されていませんが、誤削除を避けるための削除根拠の記録(出品ページのスクリーンショット・自社製品との比較画像等)を運用ルール化することが、承認率維持の基本です。


