Amazonで自社商品に相乗り出品してきたセラーに、商標侵害や正規販売ルート外であることを理由とした警告文を送ったのに、まったく反応がない、あるいは無視されて出品が続いている。ブランドオーナーが一度は通る場面です。
この記事では、警告を無視された段階からAmazon上で相乗り出品を排除するまでの5ステップを、実務で回す順番でまとめます。 また、それでも一部のセラーが排除しきれなかった時に備える「継続監視体制」の組み方についても触れます。
結論サマリー
- 警告無視は珍しくない。多くの相乗りセラーは「警告メールを無視して、申告が来るまで様子見」を前提に動いている
- 実務フローは5ステップ: (1) 証拠整備 → (2) Amazon知的財産権侵害申告 → (3) Test Buy(テスト購入)→ (4) 偽造品だった場合の公式通報 → (5) 法的手段
- 段階を飛ばさない。特にTest Buyを飛ばすと「偽造品の物的証拠」が揃わず、Amazon側の対応が進みにくい
- 排除後も継続監視が必要。一度排除しても別アカウントで再出品されるケースが多く、監視ツールや代行サービスで定点観測する体制が実質の前提
- 証拠が揃わないケースでは、Brand Registry+Transparency等の「予防的ブロック」に切り替えた方が効率的な場面もある
症状 — なぜ警告が無視されるのか

まず押さえておきたいのは、相乗り出品セラーの多くが「警告メールは無視が基本」で動いているという現実です。背景には次のような事情があります。
- 警告メールには法的拘束力がない。いきなり差止請求されるわけではないため、無視してもすぐに不利益が出ない
- Amazonに訴えられていない段階では出品を続けられる。Amazonが動くのは「申告」か「違反通知」が入ってから
- アカウントが複数あるセラーは、1つ潰れても別で再開できる。警告1通程度で撤退しない
- 正規品を他ルートで仕入れて転売するだけなら、独自の解釈で「合法」と主張するセラーも多い(実際の合法性は別として)
つまり、警告メールは「相乗り出品を止めるための最強手段」ではなく、「正規の手順を踏む前の第1手」にすぎないという認識に切り替える必要があります。無視された時点で次のステップに進む、というフローを初めから用意しておくのが現実的です。
相乗りの種類を見極める
対処法は、相乗りの種類によって最適解が変わります。まずは相手のタイプを判定しておきます。
| タイプ | 特徴 | 優先手段 |
|---|---|---|
| 正規品の横流し転売 | 本物を仕入れて安値で転売、偽造ではない | 販路契約の見直し+監視強化 |
| 類似品の相乗り | パッケージ・仕様が微妙に違う偽物に近い商品 | 商標・意匠での知財申告 |
| 明確な偽造品 | 正規品と主張しているが明らかに違う | Test Buy → Amazon公式通報 |
| 期限切れ・並行輸入品 | 正規品だが国内保証対象外など | 販売条件での申告、または黙認 |
明確な偽造品のケースが最も強く動けるのが特徴です。逆に「正規品の横流し」は法的に止める根拠が弱いため、次で解説する証拠整備の段階で「偽造かどうか」を見極めるのが初手になります。
「そもそも出品側と注文側のどちらから着手すべきか整理したい」という段階の方は、ECサイトの転売対策は「出品側」と「注文側」の2本立ても参考にしてみてください。
Step 1: 証拠を整える — 商標・ブランド登録・商品差異の記録
最初にやるのは証拠整備です。後続のすべてのステップの土台になるため、ここを雑に済ませると後で困ります。
揃えるべき書類・データ
- 商標登録証: 日本・米国・EU等、相乗り対象国での商標登録番号と登録証明書
- Amazon Brand Registry登録状況: Brand Registryに登録していれば専用申告ルートが使える(登録していない場合はまずここから)
- 正規品のパッケージ・商品写真: 高解像度で複数アングル、ロット番号やシリアルナンバー、素材の質感がわかる写真
- 正規流通ルートのリスト: 自社EC・正規代理店・契約卸のアカウント情報
- 相乗りセラーの出品スクリーンショット: 商品ページ全体、出品者情報、価格、在庫表示、配送元
- 相乗り商品の購入証跡(Step 3で実施)
商標登録がまだの場合、弁理士に相談して最低でも対象カテゴリの出願に動きます。Brand Registryへの登録は商標登録が前提となっており、ここがなければ以降の手順の多くが使えません。Brand Registryの前提条件や登録手順はAmazon Transparencyの導入手順で詳しく解説しています。
商品差異を文書化する
「相乗り商品が偽造品である」と主張するには、正規品との差異を文書化することが決定的に重要です。次の観点で比較表を作成します。
- パッケージ: ロゴの位置・色・印刷品質
- 商品本体: 素材・重さ・仕上げ・シリアルナンバーの有無
- 同梱物: 取扱説明書の言語・内容・紙質
- 刻印・ホログラム・QRコード: 正規品だけが持つ識別要素
この時点で「差異がない」と判明した場合、相手は正規品を横流ししている可能性が高く、知財申告では排除できません。その場合は販路契約の見直しや、Amazon Transparency等での予防的ブロックに切り替えた方が効率的です。
Step 2: Amazon知的財産権侵害申告フォームを使う

証拠が揃ったら、Amazonの知的財産権侵害申告フォームから正式に申告します。これは警告メールではなく、Amazon社が直接動く公式ルートです。
申告ルートは2つある
- Brand Registry経由(推奨): Brand Registryダッシュボードの「Report a violation」から申告。優先処理され、通常24〜48時間以内に対応されることが多い
- 一般フォーム経由:
https://www.amazon.co.jp/report/infringement等から誰でも申告可能。Brand Registry未登録でも使える
Brand Registry経由の方が圧倒的に審査が早く、相乗りセラー排除の実務ではBrand Registryを使うのが前提と考えてください。
申告時の入力項目
申告フォームで求められる主な情報は次の通りです。
- 侵害タイプ(商標権・著作権・意匠権・特許権)
- 侵害されている自社の権利(商標登録番号、著作物の登録情報など)
- 対象のASIN(複数まとめて申告可)
- 侵害の具体的内容(自由記述)
- 証拠資料のアップロード
各文例や具体的な書き方は、次の記事でテンプレートと合わせて解説しています。
申告後の動き
申告を受理すると、AmazonはASINを一時停止にするか、セラーに対して反論の機会を与えます。セラーが反論しなかった場合、そのまま出品が削除されます。反論が来た場合、追加証拠の提出を求められることがあり、ここで対応できないと申告が取り下げられ相乗り出品が復活します。
申告は1回で終わりではなく、反論への対応まで含めて1セットと考えてください。
申告が却下されたら
「証拠が不十分」「権利の紐付けが弱い」などの理由で却下されるケースもあります。その場合の選択肢は次のStep 3(Test Buy)で物的証拠を固めるか、別の権利(著作権・意匠権)で再申告するかです。却下されてそのまま放置すると、セラー側は「この権利者は申告が通らない」と学習してしまうので、あきらめずに次の手を打つのが重要です。
Step 3: Test Buyで偽造品を証明する
Test Buyは、自分で相乗りセラーの商品を購入し、正規品ではないことを物的証拠として確立する手段です。知財申告が却下されたり反論で揉めたりした時の最強の武器になります。
Test Buyの手順
- 購入アカウントを分ける。自社アカウントでの購入は相手に情報が渡る可能性があるため、別名義のアカウントで購入する
- 配送先も分ける。自社所在地や関係者宅は避け、専用の受け取り場所を用意する(バーチャルオフィス等)
- 相乗りセラーの商品ページから、そのセラーが販売している条件で購入する。「カートボタンから購入」ではなく、「その他の出品者」から指名買いが確実
- 受け取り時に外装から記録を開始。配送伝票、開封前の外装、開封過程、商品本体、同梱物まですべて撮影・動画記録
- 到着した商品を正規品と並べて比較。差異を写真と文書で記録
- シリアルナンバー・ロット番号をメーカー側DBで照合(管理していれば)
偽造品であることを示す決定打
- シリアル・ロットが自社DBにない、または他の正規流通先のもの
- パッケージの印刷品質が明らかに劣る
- 原材料・質感が違う(検査機関での分析を検討)
- 同梱物の言語が対応国ではない(例: 日本向け販売なのに英語マニュアルのみ)
重大な偽造品の場合は検査機関での鑑定書を取ることも有効です。鑑定書があると、後続の法的手段やAmazonへの再申告で強力な根拠になります。
Test Buyのコスト感
1回あたりの商品代+送料+受け取り場所費用+場合により鑑定費用、で数千円〜数万円です。相手が複数アカウントで出品している場合は、アカウントごとに別途Test Buyが必要になるため、合計数万円〜十数万円の予算を確保しておくのが現実的です。
Step 4: テストバイ結果の通報 — 偽造品が確定したら

Test Buyで偽造品が確定したら、より強い申告ルートに切り替えます。単なる商標侵害ではなく「偽造品販売」としての通報です。
偽造品通報の特徴
- 対応が圧倒的に早い。偽造品は Amazon 自身にとってもブランド毀損リスクなので、24時間以内に出品停止されるケースも多い
- セラーアカウント自体が停止される可能性が高い。単発ASINの削除だけでなくアカウント全体が止まれば、別商品での再出品も封じられる
- Amazon Counterfeit Crimes Unitに連携される。大規模な偽造品流通の場合、Amazonと連携して法的対応が進むことがある
通報時に添付する資料
- Test Buyで購入した商品の受領から開封、比較までの全記録
- 正規品と偽造品の差異を整理した比較書
- 商品代・送料・受取先の領収書一式(偽造品購入の証跡)
- 検査機関の鑑定書(取っていれば)
資料の量と質で対応スピードが大きく変わります。 Brand Registry経由の申告欄からであれば「Counterfeit」カテゴリで通報でき、通常の権利侵害通報より優先度が高く扱われます。
Project Zeroという選択肢
Project Zeroは、Amazonが審査したブランドだけが使える「違反出品を即時削除できる」機能です。セラーによる反論プロセスなしに、ブランド側の判断で出品を削除できます。ただし誤申告のチェック機構として AIによる事前検知も動いており、Brand Registryで実績を積んだブランドだけに提供されるスクリーニングもあるため、全員が使えるわけではありません。
Step 5: 法的手段 — 弁護士相談と差止請求
Amazon上での申告と並行して、あるいは申告でも排除できない場合に進める選択肢が法的手段です。
主なアクション
- 弁護士名義の警告書送付: 自社名義の警告より格段に強い圧力。セラー情報が取れている必要あり
- 差止請求訴訟: 商標権侵害・不正競争防止法違反などで裁判所へ申し立て
- 損害賠償請求: 売上減・ブランド毀損の損害額を算定して請求
- 刑事告訴: 悪質な偽造品販売の場合、商標法違反で刑事告訴も選択肢
法的手段のコストと効果
- 弁護士費用: 初回相談から警告書送付で10〜30万円、訴訟まで進むと100万円以上が現実的
- 期間: 差止請求訴訟で半年〜1年以上
- セラーを特定できるかがボトルネック: Amazonのセラーページの情報(住所・代表者)が虚偽の場合、法的手段そのものが進まない
法的手段は「損害賠償を取り戻す」目的で進めるというより、「悪質セラーへの抑止力として使う」戦略と捉えた方が合理的です。弁護士名義の警告書を送るだけで撤退するセラーも一定数います。
海外セラーへの対処
海外アカウントのセラーの場合、法的手段の実効性はかなり下がります。この場合はAmazon側での申告を繰り返す、Transparency等でそもそも偽造品が出荷されない仕組みを作る、といった「Amazonのエコシステム内で完結させる戦略」が中心になります。
それでも排除できない時の継続監視
5ステップをすべて踏んでも、一部のセラーは別アカウントで再出品してきます。これは相乗り問題の構造的な限界で、「一度排除したら終わり」ではなく「継続的に監視する」体制が前提になります。
継続監視の3つのパターン
パターン1: 自社で毎日目視チェック
- SKU数が少なく、担当者を配置できる場合のみ現実的
- 深夜・早朝の出品はカバーできず、漏れる
パターン2: 監視ツールで自動化
- 画像ハッシュやテンプレートマッチングで継続スキャンし、相乗りが出た瞬間にアラート
- 1SKUあたり月数千円〜数万円の運用コスト
パターン3: 代行サービスに委託
- 監視 → 申告 → 反論対応まで一括で代行
- コストは月10〜30万円が目安、大規模ブランド向け
多くの中堅ブランドはパターン2で監視を自動化し、知財申告の実作業だけ自社で行う構成で運用しています。注文側の転売対策(自社ECでの購入制限)まで含めた体制はShopifyストアの転売対策まとめに整理しています。
監視ツール選定のポイント
- モール横断で監視できるか(Amazon・楽天・Yahoo!・メルカリなど)
- 画像認識の精度(パッケージが似た別商品を誤検知しない)
- 申告ワークフローとの連携(検知→申告テンプレート生成→追跡まで一気通貫で動くか)
- 日本語サポート体制(海外ツールは英語のみのことも多い)
まとめ — 5ステップを回す前提で警告段階から設計する
警告を無視された時の対処は、その場で1回きりの対応ではなく、最初から5ステップを回す前提でフローを準備しておくのが正解です。
- Step 1: 証拠整備: 商標・Brand Registry・商品差異の文書化
- Step 2: Amazon知財申告: Brand Registry経由で優先処理
- Step 3: Test Buy: 物的証拠として偽造品を確定
- Step 4: テストバイ結果の通報: 偽造品確定後の強い通報ルート
- Step 5: 法的手段: 弁護士名義の警告書 → 差止請求 → 刑事告訴
排除後も継続監視は必須で、ここを手動でやるか、ツール/代行で自動化するかがブランド規模に応じた次の判断軸になります。
「警告を送って終わり」のフローは、相手側から見れば実質何もしていないのと同じです。このフローを知っていることが、ブランド保護の第一歩になります。


